2023.03.24
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このインタビュー記事の連載は、株式会社islandworksが学校を通じて学生へインタビューを行い、独自の視点からプロジェクト学習(PBL/課題解決型学習)によるプロセスからの学びや有効性等をケースごとにまとめたレポートです。
多くの方に地域や企業、専門機関等と連携して学校を越えた学びの場や機会作りの有意義性を伝える目的で発信しております。
中部農林高校 食品科学科はどんなところ?
明治35年に農学校として創立されたこの学校は、
時代の変遷とともに中部農林高等学校へと改称。
沖縄県の農業教育の中核を担い歴史を積み上げてきました。
専門高校としての専門・職業教育を進めながら多様性を尊重していく共生教育を実践しています。
食品科学科では、農畜産物の加工・貯蔵、品質管理及び調理や食品衛生に関する知識と技術を習得させ、食品関連産業に従事できる能力と態度を育成することを目標に掲げています。
〜学校HPより抜粋〜
沖縄の方言で山芋は「やまん」と呼ばれています。
伝統島野菜に挙げられる食材で、琉球王朝時代には不老長生の聖薬として重宝されていたことが琉球王国書物「御膳本草」にも記されています。
山芋の生産が盛んな地域は、読谷村や恩納村、うるま市など。
実は、収穫された山芋の大きさを勝負する「山芋スーブ大会」が開催されるなど、山芋と言えばこのスーブ(沖縄の方言で”勝負”を意味する)大会が有名です。
勝負の世界に魅了されて山芋を生産する農家さんも多いのだとか。
大きなものは、100キログラム近くもある山芋。人生を賭けた熱き勝負で、「やまん(山芋)は男のロマン、女の不満」なんていう言葉もある程。
第二次世界大戦中前後には、食を支えた重要な食材だったにもかかわらず、知名度は地域に止まり、
県外生産の山芋に比べて販売価格差があるなど、流通量や市場競争力の低さからブランド化が難しい食材と課題があるそうです。
そんな山芋を一度に大量加工した商品など商品開発ができないかと、農家の方からのお悩みに挑戦することになった中部農林高校食品科学科の学生のみなさん。
食品科学科だからこそ、食材の保存方法や食品加工の授業を通じて、山芋の商品開発へとプロジェクト活動が2019年よりスタートしました。
まず学生の皆さんが着手したのは、山芋の特性を調査すること。
山芋は食物繊維やポリフェノールが豊富な食材であるも、保存性の悪さや加工品や調理法が少ないことも課題に挙げられるそうです。
実際に低温保蔵が難しい山芋を冷蔵保存をすると1日で液状化したり、変色・臭いを放つことを検証。
粘り成分や上品な甘味を上手く長期保存する方法として「食品製造」や「総合実習」の授業を経て、
ブランチング処理やすりおろし冷凍、生は常温暗所保存など加工方法を試して結論付けしています。
このブランチング処理は農家のみなさんも「なるほど!」と新しい発見になったそう。
こうした検証・実験を理論に沿って確立できる専科ならではの学びの収穫です。
保存方法が確立できたら、いざ商品開発。
大量に一度に加工でき保存期間をできるだけ長く保てる商品作りで、ヒントを得たのはなんと「ケチャップ」。
実は、国内で販売されるケチャップの原料に使われているトマトはほとんどが輸入原料によるものです。
また、農林水産省のデータによると、日本は他国に比べても輸入食品に係るフードマイレージは世界1位という現状。
学生のみなさんは、ケチャップを調べていく中から、環境面や食料自給率など日本の食の課題があることを深掘りする学習へと展開していくことになります。
また、ケチャップが必ずしもトマト由来でないものも多く商品として世界では販売されていることも
大きな発見となりました。
ヨーロッパにはマッシュルーム、インドネシアでは大豆、フィリピンにはバナナ由来のケチャップがあります。
「では、山芋でも作れるのでは???」
そんな新しい問いを商品化に活かす上で大きな実験となったのが、麹による発酵と色素づけ。
米麹・紅麹による発酵実験、ローゼルを使った色素抽出実験、そして紅麹製造の川上まで発展。
授業単元「微生物利用」を活かした商品開発です。
これでトマトを使わずに「食料自給率99%」赤色のケチャップ(山芋を使った加工食品)を完成させました。また、賞味期限を2ヶ月という保存実験も遂行。
こうして完成した山芋ケチャップ(商品名:MuiMui)には、下記の様な効果が期待できる商品となりました。
◉山芋ムチン:疲労回復、腸内改善、免疫力向上
◉ローゼル:抗酸化作用による美肌効果、脂肪蓄積を防ぐ効果、血糖値上昇を抑制する効果
◉紅麹ビタミンB:消化・吸収の促進、腸の善玉菌増大、整腸作用
◉紅麹菌モナコリンK:血圧降下作用、コレステロール効果作用
実は、このプロジェクトでの商品開発で大きな収穫と革新的だと感じたことに、実社会で販売できる商品開発として展望を見据え、学校の枠を超えた技術や製造管理の裏付けを学生たちが学んだことにあることです。つまり、商品開発において実用性や事業化の実現可能性が高いことにあります。
実際に、沖縄県工業技術センターと粘度規格の調整や琉球大学農学部の発酵科学研究室とのカビ毒安全性の検証、栄養分析・機能性成分分析。
そして、2020年から食品衛生法改正により義務づけられたHACCAP管理に対応した製造実験も行っています。
学校内の実験に留まらず、専門家や研究所との連携を通じて、社会に流通する食品がどんな取扱いや製造管理義務があるのかを学ぶことで、学生の皆さんにとっては、視野の広がり、流通実現性の高い商品開発の経験が、社会に出てからや食品関連の専門職へのキャリアパスにおいても非常に大きなアドバンテージ繋がる様に思います。
商品開発後の次の展開を目指すとなれば、販路開拓や持続的に継続できる事業化の仕組みづくり。
探究型学習でプロジェクトゴールの設定は、授業の範疇(限られた授業時間数など)によっても変わりますし、学習を通じて学生自身がさらに展開を望んで個人的に学びを深めるケースもあります。
学校授業における探究学習でのゴール設定の多くは、プロジェクト成果が商品アイディア(商品開発まで行う事例はリソースがないと難しい)や学びをアウトプットするに留まることも多いものです。
しかしながら最近では、探究型学習から事業化を目指したプロジェクト事例も全国的に多くなってきました。
・東京都立篠崎高等学校 「江戸川区の魅力を創生するオリジナルプラン」
・八重山高校 当銘 由羅さん 沖縄八重山諸島オリジナルSDGs学習ゲーム
・宜野湾高校「つくってたべようもぐもぐプロジェクトー食品ロス&堆肥&食育活動ー」
とはいえ、このフェーズになると通常のビジネス同様、資金リソースや事業主体者を誰に置くのかなどいくつか枠組みを設定していく必要があり、学校を超えて事業者との連携も必要になります。
今回の山芋(ヤマン)プロジェクトでは、継続性のある事業展開を目指していることもあり、実際に地域の紅麹発酵食品事業者と連携し、商品共同開発による技術継承、コンセプトや販路の実現に向けて共同ビジネス化まで決定し遂行しています。
実際に、学生のみなさんは商品の普及活動として、研究報告や農家試食会、地域の子供達に食育活動を通じたやまいも体験教室(ワークショップ)の開催、農と食を繋ぐイベントでの実演販売など精力的に行っています。
このプロジェクトで素晴らしい点は、学生が学年を経てこのプロジェクトを継承する体制づくりを行っていること。技術や販売プランを事業者と連携するなど属人的な展開ではなく、地域発信の食や事業継続性を第一にして事業を進めていることにあります。
今後は、事業プランニングも専門家と練り上げながら、KPIを設定して事業規模拡大を目指して奮闘していくとのこと。
今回のプロジェクトでは、学科担当の長間先生がメンターとして学生の「問い」を上手く引き出し、サポートしていることもプロジェクト展開や深掘り、そして何より学生の成長に寄与しているのだと感じました。
専門分野の学びをより深め、また地域や企業連携を通じて学校外での繋がりの経験から今後のキャリアに繋がるのだと感じます。
インタビューをさせていただいた日も、丁度次学年の生徒にプロジェクトを引き継ぐ日でした。
学生からプロジェクト説明を目を輝かせながら自分の言葉で話している姿や、これまでの苦労話や成功体験を本音ベースで笑いながら話すのを伺うと、これが挑戦から得る学びなんだと改めて感じます。
心からのエールと共にインタビューに応じてくださったことを感謝して。