このインタビュー記事の連載は、株式会社islandworksが学校を通じて学生へインタビューを行い、独自の視点からプロジェクト学習(PBL/課題解決型学習)によるプロセスからの学びや有効性等をケースごとにまとめたレポートです。
多くの方に地域や企業、専門機関等と連携して学校を越えた学びの場や機会作りの有意義性を伝える目的で発信しております。
今回、インタビューをさせていただいたのは、沖縄県にある昭和薬科大学附属高等学校1年生で模擬企業という形で商品開発・販売事業に取り組んだプロジェクトメンバーの皆さんです。(インタビュー時期は2023年2月中旬)
昭和薬科大学附属高等学校はどんなところ?
学校法人昭和薬科大学が、太平洋戦争の戦禍を受けた沖縄県に私学の特色ある教育を通して人材育成に貢献したいという主旨で設立した学校です。教育の実践では、下記の4つを教科教育に掲げています。
学校HPより抜粋。
今回のプロジェクト活動で興味深い点は、「模擬起業」という認定NPO法人 金融知力普及協会が高校生を対象に運営しているリアルビジネス体験プログラムを通じて、商品開発や販売実践だけにとどまらず、株式会社としての決算や予算計画などの会計面まで学生達で行っていることです。
模擬起業ですので、実際に登記をして会社を興して事業展開するわけではないですが、学生の皆さんはこのプログラムを通じて、自ら事業を考え構想し、実践する学校ではできない貴重な経験をされていました。
「事業を営む」ということには、商品開発、販売、広報、商品管理や会計・資金調達、事業計画といった多くの仕事があり、一連の業務をチームで行う組織体制の良し悪しが事業に影響することもあります。
実際に、中小企業庁の「小規模企業白書」によると、起業して5年後には5社に1社が廃業しているといわれている中、生徒達が将来起業するかは横に置いて、どんな仕組みで事業が営まれているのかを体感値で社会のニーズに触れ、事業の仕組みを学ぶことに価値があるように思います。
①プロジェクトの組織体制
このプロジェクトでは、しっかり組織体制を構築している点が注目処。
「社長」「人事・法務部」「仕入部」「広報・マーケティング部」「経理部」と、5つの部署に分かれて担当者がつき、自分の業務が明確化されています。
また、商品開発会議や予算計画、進捗状況などもミーティングは定期開催、細かい状況把握はコミュニケーションツール「ライン」を活用しています。また、最終決定や方向性、とりまとめを「社長」が行うという意思決定のプロセスも系列的に行っていました。
そこには意見がまとまらなかったり、誰かが業務遂行にてこづることがあった時には、俯瞰した立場で組織の意見をまとめていく役割の重要性を学生自身が意識して組織形成をしており、
プログラムにおけるメンターはいるものの、学校側の先生方が直接プロジェクトに関わることはなく、プロセスを踏む中で、学生自身が自立した組織を築きあげていることには感銘を受けました。
②商品開発ストーリー
商品開発をする上で、多方の視点をもとに商品設計することが必要になってきます。
例えば、製作に繋がる背景ストーリー、商品の機能性、デザイン性、汎用性、ペルソナ設定・顧客ニーズ(潜在・健在)や事業採算性など。
高校生の彼女たちが考えた商品は、彼女たちの日常にある出来事がきっかけで開発に進んでいきます。
思春期の彼女たち。
ある友人との会話で、思春期ならではのエピソードがありました。
思春期の娘を持つ世のお父さま方は悩んだこともあるかもしれませんが、
あの、「お父さん、臭いからあっち行って〜」「洗濯物は分けてよね!」「恋愛話なんて絶対できない」な〜んて言う、悲しい娘の言葉。
そう、思春期の子供と親子のコミュニケーションの悩みです。
彼女たちの周りでもそんな声をよく聞くとのこと。
でも、本当は感謝の気持ちや尊敬、愛の気持ちがあるのに素直に言えない。
そんな思春期ならではの悩みを上手い方法で解決したい。
よく親が飲むコーヒーのホッとしたひと時に、直接ではないけれど、感謝の気持ちを添えることができないか。そんな場面を思い浮かべてできたのが、感謝の気持ちが浮き上がる「ハート型のドリップパックコーヒー」でした。
高校生の彼女達らしいストーリーです。
彼らだからできた商品なのではないかと思います。
コーヒーであれば、毎日飲む人も多く、こんな商品なら父の日、母の日といったイベント時の贈り物にも最適ではないか。
そう考え、採算性や販売方法などマーケティングへのプロセスへとアイディアを形にしていく作業へと進み始めます。
③商品設計と販売方法〜苦労話・成長プロセス〜
優秀な学校に通う流石の皆さんですが、やはり苦労したこと、自分の苦手意識を克服したことももちろんありました。
商品設計では図形に強いメンバーがハート型の文字が浮かび上がるドリップパック附属パッケージを開発。
それを生産してくれる業者(パッケージメーカー)を探していく作業。
県内外に問い合わせをかけ、何社も断られたり、最低生産ロット希望に合わなかったり、門前払いになったこともしばしば。
その中で、県外メーカー企業の担当者さんに断られても食い下がり、熱意をメールや電話、オンライン会議などを重ねて粘り勝ちして製作発注へこぎつけます。
実はこの作業を担当した仕入部メンバーは、人見知りでなかなかこうした交渉をするなんで当初できなかったと話します。
しかし、パッケージ開発を何度も試行錯誤をして作る他のメンバーの苦労や思いを無駄にはしたくない、次に繋げたいという想いが苦手意識を持つ自分を奮い立たせて契約を取り付ける運びになりました。
チームワークというのは、誰かが誰かのために補いながらチーム目標を達成していくときに強さを発揮するのかもしれません。
ハート型のドリップパックに附属するパッケージは、コーヒーにお湯を注ぐときの蒸気で浮かび上がる特殊印刷をかけ、「ありがとう」「これからもよろしくね」の2つのパターンを製作。
コーヒーは、沖縄県北中城にある焙煎にこだわった安座間珈琲さんに卸してもらっています。
もちろん、購入するペルソナに設定しているのは同じ世代の高校生。
値段も手にとりやすい価格設計にし、オンラインとpop upでの対面販売の両方で販売計画を練り、
広報では、SNSアカウントを開設、POP UP情報やオンラインでの購入がスムーズにできる設計や
地元紙の取材等を活かして宣伝活動も精力的に行ったそうです。
しかし、実際に販売をしてみると、オンライン売上の伸びが思いのほか悪いという現実。
背景には、この商品の背景ストーリーがより伝わる対面販売の方が商品価値を感じてもらえるということがpopup販売を通じて明確化。
販売管理で、販売チャネルにおける在庫調整を行い、対面販売に力を入れる計画へ切り替え。
見事このリアビスコンテスト期間内に完売し売上目標を達成する運びとなったそうです。
こうした背景を伺って感じるのは、販売までの開発や他社との業務提携の事業プロセスを通じて、予想と異なる状況を想定して動くことや、改善点を早めに見定め早期対処する力をチームで醸成してきたのではないかと感じます。
今回の彼女たちのプロジェクトインタビューで感じることは、彼女たちが模擬企業のプロセスを通じて、自分たちの苦手分野や事業で生じた障壁を乗り越えることに実直に向き合ったことが、大きな成長に繋がったと彼らが自負している様子です。
達成感というか、爽快感が漂うような雰囲気で話をする姿が印象的でした。
インタビュー冒頭、このビジネスコンテストに参加する動機を伺うと、声を揃えてメンバーが話してくれたことは、「学びを得たい」という純粋な気持ちでした。
失敗すること、チームワークが上手くいかないとき、このプロジェクトの仕事量と学業との両立など多くの壁にまっすぐ向き合えたのは、この純粋で真摯な知的好奇心が大きく背中を押した様に思います。
実際に彼女たちはこの「リアビズ高校生模擬起業コンテスト」で全国の参加チームの中から、金賞とグランプリに輝く功績を残しました。
プレゼンテーションでは、メンターの方のアドバイスもあって堂々と「私たちが金賞に値する」と宣言。
審査員からの質問で、販売が想定通りに運ばなかった時の対処についての回答も論理的な視点から対処法を練ったことを話すなど、そこにはプロジェクトで培った経験値からくる自信と
大舞台での発表で緊張で声が震えた、どちらも彼女たちの等身大の姿が見て取れました。
この先の展望を聞くと、また学業に励む子や留学に行く子など彼らなりの先の人生を見ていました。
何かをやり遂げる経験は、学業でも部活動でも個人的な活動でも子供達が精神的な成長、思考の成長をすることで自信に繋がるプロセスと感じます。
実際にはそこで重要な要素が、主体的に取り組めているかということがポイントになります。
もちろんチームワークによって補えるモチベーションや強さもあるかと思います。
ただ、個それぞれがなぜそれをやりたいのかという意識の明確化や意識を持つことは達成感においては重要な要素だと言えそうです。
このインタビュー記事の連載は、株式会社islandworksが学校を通じて学生へインタビューを行い、独自の視点からプロジェクト学習(PBL/課題解決型学習)によるプロセスからの学びや有効性等をケースごとにまとめたレポートです。
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中部農林高校 食品科学科はどんなところ?
明治35年に農学校として創立されたこの学校は、
時代の変遷とともに中部農林高等学校へと改称。
沖縄県の農業教育の中核を担い歴史を積み上げてきました。
専門高校としての専門・職業教育を進めながら多様性を尊重していく共生教育を実践しています。
食品科学科では、農畜産物の加工・貯蔵、品質管理及び調理や食品衛生に関する知識と技術を習得させ、食品関連産業に従事できる能力と態度を育成することを目標に掲げています。
〜学校HPより抜粋〜
沖縄の方言で山芋は「やまん」と呼ばれています。
伝統島野菜に挙げられる食材で、琉球王朝時代には不老長生の聖薬として重宝されていたことが琉球王国書物「御膳本草」にも記されています。
山芋の生産が盛んな地域は、読谷村や恩納村、うるま市など。
実は、収穫された山芋の大きさを勝負する「山芋スーブ大会」が開催されるなど、山芋と言えばこのスーブ(沖縄の方言で”勝負”を意味する)大会が有名です。
勝負の世界に魅了されて山芋を生産する農家さんも多いのだとか。
大きなものは、100キログラム近くもある山芋。人生を賭けた熱き勝負で、「やまん(山芋)は男のロマン、女の不満」なんていう言葉もある程。
第二次世界大戦中前後には、食を支えた重要な食材だったにもかかわらず、知名度は地域に止まり、
県外生産の山芋に比べて販売価格差があるなど、流通量や市場競争力の低さからブランド化が難しい食材と課題があるそうです。
そんな山芋を一度に大量加工した商品など商品開発ができないかと、農家の方からのお悩みに挑戦することになった中部農林高校食品科学科の学生のみなさん。
食品科学科だからこそ、食材の保存方法や食品加工の授業を通じて、山芋の商品開発へとプロジェクト活動が2019年よりスタートしました。
まず学生の皆さんが着手したのは、山芋の特性を調査すること。
山芋は食物繊維やポリフェノールが豊富な食材であるも、保存性の悪さや加工品や調理法が少ないことも課題に挙げられるそうです。
実際に低温保蔵が難しい山芋を冷蔵保存をすると1日で液状化したり、変色・臭いを放つことを検証。
粘り成分や上品な甘味を上手く長期保存する方法として「食品製造」や「総合実習」の授業を経て、
ブランチング処理やすりおろし冷凍、生は常温暗所保存など加工方法を試して結論付けしています。
このブランチング処理は農家のみなさんも「なるほど!」と新しい発見になったそう。
こうした検証・実験を理論に沿って確立できる専科ならではの学びの収穫です。
保存方法が確立できたら、いざ商品開発。
大量に一度に加工でき保存期間をできるだけ長く保てる商品作りで、ヒントを得たのはなんと「ケチャップ」。
実は、国内で販売されるケチャップの原料に使われているトマトはほとんどが輸入原料によるものです。
また、農林水産省のデータによると、日本は他国に比べても輸入食品に係るフードマイレージは世界1位という現状。
学生のみなさんは、ケチャップを調べていく中から、環境面や食料自給率など日本の食の課題があることを深掘りする学習へと展開していくことになります。
また、ケチャップが必ずしもトマト由来でないものも多く商品として世界では販売されていることも
大きな発見となりました。
ヨーロッパにはマッシュルーム、インドネシアでは大豆、フィリピンにはバナナ由来のケチャップがあります。
「では、山芋でも作れるのでは???」
そんな新しい問いを商品化に活かす上で大きな実験となったのが、麹による発酵と色素づけ。
米麹・紅麹による発酵実験、ローゼルを使った色素抽出実験、そして紅麹製造の川上まで発展。
授業単元「微生物利用」を活かした商品開発です。
これでトマトを使わずに「食料自給率99%」赤色のケチャップ(山芋を使った加工食品)を完成させました。また、賞味期限を2ヶ月という保存実験も遂行。
こうして完成した山芋ケチャップ(商品名:MuiMui)には、下記の様な効果が期待できる商品となりました。
◉山芋ムチン:疲労回復、腸内改善、免疫力向上
◉ローゼル:抗酸化作用による美肌効果、脂肪蓄積を防ぐ効果、血糖値上昇を抑制する効果
◉紅麹ビタミンB:消化・吸収の促進、腸の善玉菌増大、整腸作用
◉紅麹菌モナコリンK:血圧降下作用、コレステロール効果作用
実は、このプロジェクトでの商品開発で大きな収穫と革新的だと感じたことに、実社会で販売できる商品開発として展望を見据え、学校の枠を超えた技術や製造管理の裏付けを学生たちが学んだことにあることです。つまり、商品開発において実用性や事業化の実現可能性が高いことにあります。
実際に、沖縄県工業技術センターと粘度規格の調整や琉球大学農学部の発酵科学研究室とのカビ毒安全性の検証、栄養分析・機能性成分分析。
そして、2020年から食品衛生法改正により義務づけられたHACCAP管理に対応した製造実験も行っています。
学校内の実験に留まらず、専門家や研究所との連携を通じて、社会に流通する食品がどんな取扱いや製造管理義務があるのかを学ぶことで、学生の皆さんにとっては、視野の広がり、流通実現性の高い商品開発の経験が、社会に出てからや食品関連の専門職へのキャリアパスにおいても非常に大きなアドバンテージ繋がる様に思います。
商品開発後の次の展開を目指すとなれば、販路開拓や持続的に継続できる事業化の仕組みづくり。
探究型学習でプロジェクトゴールの設定は、授業の範疇(限られた授業時間数など)によっても変わりますし、学習を通じて学生自身がさらに展開を望んで個人的に学びを深めるケースもあります。
学校授業における探究学習でのゴール設定の多くは、プロジェクト成果が商品アイディア(商品開発まで行う事例はリソースがないと難しい)や学びをアウトプットするに留まることも多いものです。
しかしながら最近では、探究型学習から事業化を目指したプロジェクト事例も全国的に多くなってきました。
・東京都立篠崎高等学校 「江戸川区の魅力を創生するオリジナルプラン」
・八重山高校 当銘 由羅さん 沖縄八重山諸島オリジナルSDGs学習ゲーム
・宜野湾高校「つくってたべようもぐもぐプロジェクトー食品ロス&堆肥&食育活動ー」
とはいえ、このフェーズになると通常のビジネス同様、資金リソースや事業主体者を誰に置くのかなどいくつか枠組みを設定していく必要があり、学校を超えて事業者との連携も必要になります。
今回の山芋(ヤマン)プロジェクトでは、継続性のある事業展開を目指していることもあり、実際に地域の紅麹発酵食品事業者と連携し、商品共同開発による技術継承、コンセプトや販路の実現に向けて共同ビジネス化まで決定し遂行しています。
実際に、学生のみなさんは商品の普及活動として、研究報告や農家試食会、地域の子供達に食育活動を通じたやまいも体験教室(ワークショップ)の開催、農と食を繋ぐイベントでの実演販売など精力的に行っています。
このプロジェクトで素晴らしい点は、学生が学年を経てこのプロジェクトを継承する体制づくりを行っていること。技術や販売プランを事業者と連携するなど属人的な展開ではなく、地域発信の食や事業継続性を第一にして事業を進めていることにあります。
今後は、事業プランニングも専門家と練り上げながら、KPIを設定して事業規模拡大を目指して奮闘していくとのこと。
今回のプロジェクトでは、学科担当の長間先生がメンターとして学生の「問い」を上手く引き出し、サポートしていることもプロジェクト展開や深掘り、そして何より学生の成長に寄与しているのだと感じました。
専門分野の学びをより深め、また地域や企業連携を通じて学校外での繋がりの経験から今後のキャリアに繋がるのだと感じます。
インタビューをさせていただいた日も、丁度次学年の生徒にプロジェクトを引き継ぐ日でした。
学生からプロジェクト説明を目を輝かせながら自分の言葉で話している姿や、これまでの苦労話や成功体験を本音ベースで笑いながら話すのを伺うと、これが挑戦から得る学びなんだと改めて感じます。
心からのエールと共にインタビューに応じてくださったことを感謝して。